組織・研究分野
先進がんモデル共同研究センター
Innovative Cancer Model Research Center

腫瘍遺伝学研究分野
Division of Genetics

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スタッフ

教授
大島 正伸
Oshima Masanobu

准教授
大島 浩子
Oshima Hiroko

准教授
中山 瑞穂
Nakayama
Mizuho

特任助教
WANG Dong
(ナノ研籍)

目的と研究課題

 腫瘍遺伝学研究分野では、消化管や胆管、膵臓に発生するがんの形成および悪性化進展を誘導する生物学的メカニズムの解明を目指して、新規マウスモデルやオルガノイドを用いた転移モデルを開発し、それらを用いて以下の研究プロジェクトを推進しています。

【p53遺伝子変異による転移誘導機構】

 がん組織で検出するp53遺伝子変異の多くは、ミスセンス型であり、アミノ酸置換した変異型p53は新たに発がん機能を獲得する(gain-of-function, GOF)。腸管腫瘍モデルのApcΔ716マウスにR270H型のp53GOF変異を導入したモデル解析を実施し、GOF変異に加えて野生型p53遺伝子をLOHにより欠損すると、がん細胞の生存や増殖率を亢進し、肝転移巣形成が促進されることを示しました(Nakayama M, et al, Nat Commun, 2020)。

【遺伝的多様性を持つポリクローナル転移機構】

 原発巣から遺伝的に多様ながん細胞で構成する細胞集団が遠隔臓器に転移する、「ポリクローナル転移」の概念が提唱されています。悪性度の異なるオルガノイドを用いた移植モデル実験により、転移性サブクローンが形成する線維性ニッチが、共存する非転移性細胞の生存と増殖を促進し、ポリクローナル転移巣を形成することを明らかにしました(Kok SY, Oshima H, et al, Nat Commun, 2021)。

【腸管腫瘍悪性化による物性変化Nano解析】

 大腸がん発生と悪性化を誘導するドライバー遺伝子を導入したオルガノイド細胞の細胞表面構造を、高速走査型イオン電流顕微鏡(HS-SICM)を用いて解析した結果、転移能を獲得したがん細胞に特徴的なナノレベルの構造物と物理学的性質の動的変化を明らかにしました(Wang D, et al, Biomaterials, 2022)

図1. p53 GOF/LOH変異による転移促進機構

p53遺伝子の機能獲得型(GOF)変異は、粘膜下浸潤を誘導し、さらにLOHにより野生型p53遺伝子を欠損すると、細胞生存とクローニング性質の亢進により転移巣形成が促進される。
(Nakayama M, et al, Nat Commun, 2020より引用)

図2. 転移性サブクローンによるポリクローナル転移

転移性のAKTP細胞と、非転移性AP細胞がクラスターを形成して肝臓に到達すると、AKTP細胞が形成した線維性ニッチが共存するAP細胞の生存と増殖を促進し、ポリクローナル転移巣を形成する。
(Kok SY, Oshima H, et al, Nat Commun, 2021より引用)