組織・研究分野
先進がんモデル共同研究センター
Innovative Cancer Model Research Center

分子病態研究分野
Division of Cancer Cell Biology

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スタッフ

教授
後藤 典子
Gotoh Noriko

助教
竹内 康人
TAKEUCHI, Yasuto
新学術創成機構若手PI

助教
本宮 綱記
Hongu, Tsunaki

 

目的、研究課題、最近の主な成果

 癌と癌幹細胞に注目し、基礎研究から臨床へと連続する研究の展開を目指している。最先端の分子生物学、細胞生物学的手法、さらには最新のバイオインフォマティクスを組み合わせて、癌の早期発見や個々の患者に最適な治療法を選択するための診断マーカーの抽出、そして新しい抗がん剤開発のための新たな分子標的の発見を試み、トランスレーショナルリサーチへと展開している。

  1. 癌幹細胞ー乳癌をモデル系として
    乳癌は女性の癌罹患数一位であり,今や日本女性9人に一人が一生に一回乳癌に罹患する。特に,トリプルネガティブタイプや,再発癌は治療抵抗性で予後が悪い。近年,予後が悪い大きな原因の一つに癌幹細胞の存在が示唆されている。私どもは,マウス癌モデルや,ヒト乳癌の臨床検体を用いた癌幹細胞の解析から,癌幹細胞内の新規分子標的や癌の診断マーカーの探索を行っている。
    ヒト乳癌臨床検体のスフェロイド培養,オルガノイド培養,patient-derived xenograft(PDX)を構築し,カタログ化している。
  2. 癌特異的なミトコンドリア内の代謝経路の解析
    セリンから1炭素を転移させる「1炭素代謝経路」が、癌細胞特異的に活性化している。私どもは、この1炭素が、DNAやRNAをde novoで合成するために使われるばかりでなく、癌幹細胞の維持にも重要であることを見出している。また、創薬標的としても注目している。
  3. 正常の幹細胞と癌幹細胞をあやつる増殖因子/受容体シグナル伝達
    癌という病気や,幹細胞の維持という生命現象を動かしている主役の分子群として,増殖因子受容体型チロシンキナーゼである,FGF受容体やEGF受容体は重要である。これら代表的増殖因子受容体の細胞内シグナル伝達の司令塔として,アダプター/ドッキング分子FRS2 ファミリー分子に注目している。

乳がん組織内のがん幹細胞集団は,膜タンパク質のニューロピリン1 (NRP1) もしくはInsulin-like growth factor 受容体1 (IGFR1) を用いて濃縮できる。この方法を用いてがん幹細胞を濃縮したのち,シングルセルRNAシークエンスを行ったところ,5つのクラスター(集団)に分かれた。クラスター1および2に分類されたがん幹細胞は,乳がんの発生母地とされる乳腺前駆細胞とよく似た性質を示していたため,「祖先がん幹細胞」と名づけた (図)。この祖先がん幹細胞は膜タンパク質FXYD3に対する抗体を用いて取り出すことができ,抗がん剤に対して最も治療抵抗性を示すDrug tolerant persisters (DTPs) であった。FYXD3は, 細胞膜上にあるNa-Kポンプの機能を保護する。Na-Kポンプ阻害剤である強心配糖体は,祖先がん幹細胞であるDTPsを死滅させられる。古くから心不全に用いられてきた強心配糖体が,乳がん再発を防げることが示された。