HOME | ニュースレター | News Letter Vol.11
腫瘍動態制御研究分野
教授 松本 邦夫
例えば、皮膚にみられるように、私たちの体を構成している細胞の中で、いくつかの種類の細胞は日々、細胞分裂を繰り返しています。このとき、勝手に増えているように思えますが、実はそうではありません。細胞が増えるときには、必ず細胞の外から、細胞分裂を司令する物質がやってきます。この物質は「増殖因子」と呼ばれるタンパク質です(図1左)。EGF、NGF、TGF、HGF、BMP、FGFなど、ざっと数十種類の増殖因子があります。増殖因子は細胞膜にある受容体に結合し、受容体をONにします。いわば増殖因子「カギ」が受容体「カギ穴」にはまり、細胞分裂のスイッチが入ります。増殖因子と受容体は、細胞増殖の普遍的な仕組みですが、がんでは、遺伝子の変異によって、この仕組みに異常(変異)が見つかります。例えば、肺がんの原因としてしばしば見つかるのは、EGFという増殖因子の受容体(EGF受容体)の変異が見つかります。正常細胞では、本来はEGFがその受容体にドッキングしてはじめてONになるのですが、変異したEGF受容体はたとえEGFがドッキングしなくてもスイッチがONに入りっぱなしです。もはや細胞分裂に歯止めがなくなり、がん細胞の無限増殖につながります(図1右)。
私はHGF(肝細胞増殖因子)と名付けられた増殖因子の研究をしています。HGFは当初、肝臓の再生を促すタンパク質として日本で発見されました。HGFの特徴として、細胞の遊走を促す活性が強いことが挙げられます。これは傷が修復する時に大切です。HGFは皮膚の細胞の遊走を促す結果、皮膚の傷はスピーディーに修復します。一方、似たことががん細胞で起こるとどうなるか?がん細胞にHGFが作用すると、がん細胞の遊走が活発になり、がん細胞が他の組織に散らばること、すなわち「転移」を促すことにつながります。ですから、がん組織でHGFが作られているかを高感度に検査すること、がん組織のHGFを阻害すること、これらはがんの診断や治療につながります。最近、HGFに特異的に結合する分子「HiP-8」をみつけました(図2)。HiP-8をがんの診断に応用すべく、研究を進めています。