若手・女性・人材育成

若手研究者の長期海外派遣

日本学術振興の「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」により、下記の研究者を海外共同研究機関に派遣しています。

 

アメリカ・ニューヨークでの白血病研究留学生活

星居 孝之博士(H26.4〜H28.3)

派遣先:Memorial Sloan-Kettering がん研究センター Scoot Armstrong博士
(平尾 敦教授との共同研究)

私の留学先である、メモリアルスローンケタリングがんセンターは1884年に設立された癌専門の病院である。近年ではアメリカ国内での患者ケアランク第一位に選ばれるなど、ニューヨーク・マンハッタンにあり、最前線の癌治療を提供する場として知られている。その中で、私は病院付属研究施設であるザッカーマンがんセンターに勤務している。がんセンターには120以上の主任研究者が、白血病を含む、あらゆる癌の発症・進展メカニズムの解明や治療の開発に従事している。私の所属する研究室のヘッドであるスコット アームストロング博士はMLL再構成による急性骨髄性白血病マウスモデルを中心に研究を展開し、白血病の治療標的同定と治療法の開発に力を入れている。近年ではMLL融合遺伝子の機能に重要なヒストンメチル化酵素DOT1Lとその標的治療薬に注目しており、この1年の間にも機序解明と治療効果増強に向けた同僚たちの研究が次々と結実している。研究室内外で、ヒストン修飾・DNA修飾といったエピジェネティクス制御と癌の研究が盛んに行われており、競合的ではあるが、共同研究もやりやすい研究環境である。私も刺激を受けつつ、金沢大学・平尾敦教授の下で培った知識と技術を生かし、急性骨髄性白血病の新規標的分子の同定を中心に研究を進めているところである。

施設内には、がん細胞学・細胞生物学・免疫学・薬理学・計算生物学・構造生物学等の部門があり、研究の立案段階で多くの知識と意見を取り入れることが可能で、基礎から臨床まで、幅広い癌研究を展開出来る環境が整備されている。また研究施設にはCore Facilityが充実しており、高額な機器や技術力の必要な解析を委託できるプラットフォームが確立されていることから、研究の実施もためらうことなく進めることが出来る。また、道を挟んだ隣にはロックフェラー大学とコーネル大学があり、スローンケタリングも含め、ほぼ毎日のようにセミナーが各所で開催され、非常に高名な先生のプレゼンテーションが実験の合間に聞く事が出来ることも、素晴らしい研究環境の一つと言える。

さらに、休憩が必要な際には、リフレッシュし過ぎるほど、周りは観光地に恵まれている。ゆっくりしたければ徒歩でセントラルパークへ行って、放心することも可能である。施設内の福利厚生もしっかりしており、ストレスなく働ける環境が提供されているため、幸い平日に抜け出す必要はないが、そのような場が常に近くにあることは心強い。近隣施設の研究者による日本人会もあり、日本食(Sushi, Ramen)も浸透しているので、日本人が留学するには良い場所である。

この1年は様々な事が目新しく、かつ充実しており、既に留学は研究生活の大きな転換期になると実感している。自分の研究が少しでも早く癌治療に結びつくよう、そして研究者として飛躍出来るよう、次の1年を楽しみたい。

最後になりましたが、留学に当たり支援を頂いている、日本学術振興会・頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラムに深く御礼申し上げます。

アメリカ・ニューヨークでの白血病研究留学生活

 

ボストンでの研究生活

北嶋 俊輔博士(H27.4〜H28.3)

派遣先:Dana-Farber がん研究所 David Barbie博士
(高橋 智聡との共同研究)

 

現在、私が研究生活を送っているボストンは、人口の平均年齢がおよそ30歳前後という、とても若々しく活気に満ちた都市です。街の敷地の多くをハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といった有名大学群の巨大キャンパスが占め、学生や若手研究者でひしめき合っていることが理由の1つです。治安もアメリカの中では比較的良いようで、週末ともなると学生が至る所で夜中まえ飲み歩いており、古くから残る建物の建築様式は違えども、かつて自分が学生時代を過ごした京都とどこか似た雰囲気を感じます。それでもやはり、京風とは似ても似つかない味付けが施された食べ物ばかりの食堂や、寒空による肌の痛みで運動どころか外をまともに歩くこともままならない辛く長い冬、東京都心部を超える強烈な値段設定の家賃など、アメリカあるいはボストンならではの厳しい生活環境にもしばしば直面し、特に渡米数ヶ月間でんp生活環境の変化から来る体重増加率には目を覆うものがありました。所属する研究室は、笑顔の絶えないPIのおかげでとても明るい雰囲気であり、私のお世辞にも流暢とは言えない英語での討論にも皆が忍耐強く付き合ってくれます。金沢大学では、主に乳がんに焦点を当てて基礎研究を行っており、簡単に研究内部を下に紹介したいと思います。

KRAS遺伝子変異は、非小細胞肺がんにおいて頻繁に観察されるDriver Mutationですが、その他の代表的なDriver MutationであるEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子と異なり、変異型KRASを標的とした有効な分子標的薬が存在せず、従来の科学療法以外の新規治療法の早期発見が望まれています。これまでに私の所属するBarbie研究室では、KRAS-RAL経路の下流キナーゼの1つであるTBK1を阻害することで、KRAS変異型非小細胞肺がん細胞に対して選択的に細胞死を誘導できることを明らかにしてきました。現在は、その研究結果をもとに、KRAS変異型非小細胞肺がん患者を対象にして、TAB1阻害剤を用いた第1相試験を行っています。

本手法を実際に臨床応用する際に、TBK1阻害剤に対する耐性獲得が大きな問題となる可能性があります。そこで私は現在、細胞株およびマウスモデルを用いて人工的に薬剤耐性株を作製し、その耐性獲得分子機構の解明を目指しています。また一方で、本阻害剤が、どのような患者さんに良く効くのか、についても解析しています。本阻害剤は変異型タンパク質自身を治療表的としないため、KRAS遺伝子変異検出だけでは患者選定基準として不十分であるのはもちろんのこと、そもそも免疫染色、遺伝子発見、ゲノム情報のみで薬効を完全に予測することは困難です。そこで、患者由来肺がん生細胞を特殊ミクロ培養装置上(Roger Kamm研究質(MIT)開発)で3次元培養し、TBK1阻害剤感受性を ex vino で直接評価しています。同時にサイトカインアレイ、RNAシーケンスおよびエキソームシーケンスより得られる遺伝子発現、ゲノム情報等の結果を統合解析し、実際の臨床で優れた治療工科を示すための診断基準を確立するための基盤研究を行っています。

このように臨床と強い結びつきをもった研究環境が得られる背景として、私が所属するDana-Farber癌研究所は、隣接するその他のHarvard Medical School関連医療機関であるBoston Children’s HospitalやBrigham and Woman’s Hospital等の医療機関と巨大研究ネットワークを校正していることが挙げられます。同時に、世界トップクラスの設備、人材、技術、データの蓄積を有しており、研究者間のネットワーク構築、最新の技術を学ぶ上でもこれ以上ない研究環境です。特に、所属研究室はシステムバイオロジー分やで世界トップクラスの研究者を多数擁Broad Institute of MIT and Harvardにも所属していて、種々の網羅的解析を多くの検体に対して低価格で実行でき、信頼性の高い手法、あるいは独自開発された最新のアルゴリズムを用いて様々な着眼点からデータ解析が可能です。

これまで私が金沢大学で培った経験、技術と所属研究室のモデル、技術を融合させることで、がん患者の治療というがん研究の最終目標を達成するための基盤研究を、さらに追求したいと考えています。またテーマ策定能力、論文作製技術等をPIから吸収し、将来日本に帰国して、世界と競い合う研究を実行出来る人材になれるよう努力したいと思います。

ボストンでの研究生活