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「改正労働契約法」の見直しを求める声明

「改正労働契約法」の見直しを求める声明


有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合に、労働者の申込みにより無期契約に転換できることを主な内容とする改正労働契約法(以下、改正法)が、平成25年4月から施行された。労働者の雇用の安定化を図るという法改正の一般的趣旨には賛同するものの、以下に述べるように、この改正法には、大学や研究機関(以下、大学等)における研究活動や若手研究者育成の理念と整合しない面があり、結果的に優秀な若手研究者に対する雇用状況の悪化と研究意欲の低下を招き、ひいては日本の学術研究の発展を阻害することが危惧される。
  1. 若手研究者が独立した研究者として成長する過程において、異なる研究環境を経験し、多様な研究者との学問的交流を重ねることが不可欠であることは、世界的な通念である。学問分野の特性、個人の研究能力、研究機関の置かれた状況など、様々な要因を考慮することなく、一律に5年を超えると無期契約に転換できるとする制度は、研究者の流動性を妨げる恐れがあり、多様な学問分野の健全な発展にとって好ましくない。
  2. 現在、大学等における研究活動の多くは競争的研究資金に拠っており、若手研究者は当該研究課題の実施期間内に雇用され、研究に従事する。大規模な大学等では、当該研究者がそれ以前に別の課題で同じ機関に雇用されている場合も珍しくない。この場合、改正法に従えば、仮に当該研究課題の実施期間が5年未満であっても、同一機関における雇用期間が通算で5年を超えると無期契約に転換できることになる。競争的研究資金の期間は限られているため、多くの大学等では、研究内容や課題の継続性に拘わらず一律に雇用期間を5年未満に限定するという対応が取られつつある。法改正以前は、個々の研究課題の期間に応じて定められた任期を全うすることが可能であったのに比べ、若手研究者の雇用環境がかえって悪化することは避けられず、法改正の本来の趣旨と全く相反する結果を招いている。また、競争的研究資金による研究を遂行するために最適な研究者を雇用するという仕組みも根底から崩れることになる。
  3. 近年、大学等では、運営費交付金の削減が続く厳しい財政状況のなかで、いかにして優秀な若手研究者を獲得するかについて慎重な検討を重ねた上で、選考や雇用を行っている。このような努力とは無関係に、改正法のもとで無期雇用への機械的な転換が制度化されると、優秀な若手研究者の正常な雇用の機会が奪われることになる。このような事態が長期的に続けば、あらゆる分野において日本の研究の国際的競争力の衰退は避けられない。
以上の理由により国立大学附置研究所・センター長会議は、研究者に対する一律な改正法の適用を見直すよう強くもとめるものである。

平成25年11月18日
国立大学附置研究所・センター長会議