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News Letter

News Letter Vol.12

News Letter Vol.12

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目次

  • 所長よりご挨拶
  • シンポジウム・研究会の開催
  • ニュース・国際研究交流
  • 高校生へ向けて研究紹介
    機能ゲノミクス研究分野 鈴木 健之 教授
  • 共同研究者の紹介
    金沢大学医薬保健研究域医学系 中田 光俊 教授
    金沢大学がん進展制御研究所 平尾 敦 教授
  • がん進展制御研究所若手研究者の紹介
    友杉 充宏 特任助教
    杉山 貴彦 特任助教
  • これまでに開催したセミナー/業績など
  • 石川の催し物・風物

高校生へ向けて研究紹介

がんの悪性化とエピゲノムの制御

機能ゲノミクス研究分野
教授 鈴木 健之

 がんが発症して悪性化することには、大きく2つの原因があります。ゲノムの変化とエピゲノムの変化です。ゲノムとは、遺伝情報全体のことを表す言葉です。がんは、遺伝情報が変化(遺伝子変異)することが原因で起こる<遺伝子の病気>です。では、エピゲノムとは何でしょうか?それは、ゲノムから情報を読み出す仕組みのことです。図1に示すように、ひとつの受精卵から、同じ遺伝情報を持っているさまざまな異なる種類の細胞が作られます。これはどうしてでしょうか?それは、同じ遺伝情報から、さまざまな組み合わせで情報を読み出す仕組みがあるからです。この仕組みは、遺伝情報を持つDNAについている目印(メチル化修飾)や、DNAを巻き付けて収納しているヒストンというDNA結合タンパク質についている目印(メチル化、アセチル化などの翻訳後修飾)が主に決定していると考えられています。

 がん細胞において、ゲノム(遺伝情報)の変化はいったん起きてしまうと元に戻すことが困難ですが、エピゲノムの変化は可逆的な性質を持っていて、元の状態に戻すことが比較的容易です。私たちの研究の目的は、がんの悪性化をつかさどるエピゲノム変化の役割を明らかにして、その可逆的性質に注目して、元の正常な状態に戻すことを戦略とする新しいがんの治療法を開発することです。

 例えば、がんの転移が起きる初期の段階には、がん細胞の性質が変化することが知られています。上皮系のがん細胞が間葉系のがん細胞に変化するという<上皮間葉転換>という現象が起きると、がん細胞が動きやすくなって転移するようになります。図2のがん細胞は、TGF-betaという増殖因子を加えると上皮間葉転換を起こして、細胞がバラバラに散らばります。これが、がんの転移につながると考えられます。しかし、このがん細胞で、ヒストンタンパク質に特定の目印をつける酵素のはたらきを阻害すると、TGF-betaによるがん細胞の上皮間葉転換がブロックされました。この実験結果は、エピゲノム変化をコントロールしている特定の因子を標的として阻害すると、がんの転移が阻止できる可能性があることを示しており、さらに詳しく研究を進めています。