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News Letter

News Letter Vol.16

News Letter Vol.16

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目次

  • 所長よりご挨拶
  • シンポジウム・研究会の開催
  • 共同研究者の紹介
    東京大学大学院理学系研究科 菅 裕明 教授
    金沢大学がん進展制御研究所 松本 邦夫 教授
  • がん進展制御研究所若手研究者の紹介
    小谷 浩 助教
    Rojas Chaverra Nichole Marcela 研究員
  • 高校生へ向けて研究紹介
    免疫炎症制御研究分野 須田 貴司 教授
  • これまでに開催したセミナー/業績など
  • 石川の風物

高校生へ向けて研究紹介

細胞の死に方の研究

免疫炎症制御研究分野
教授 須田 貴司

 私たちの研究室では、プログラム細胞死について研究しています。プログラム細胞死とはどんな細胞死でしょうか。

 例えば、強い放射線は細胞を構成する様々な分子を破壊し、細胞を殺します。このような細胞死は細胞にとっては予定外の死で、外傷性細胞死、あるいは事故的細胞死と呼ばれます。一方、弱い放射線では細胞はすぐには死にませんが、遺伝子が傷つきます。遺伝子の傷が少なければ、細胞は傷を修復しようとします。しかし、遺伝子の傷が多いと修復をあきらめて、細胞は積極的に死んでいくことが分かっています。これは、遺伝子の傷の修復に失敗すると、がん細胞を生み出してしまう可能性があるからです。実際に、細胞死を阻止する遺伝子ががんの原因となり、逆に細胞死を誘導する遺伝子が発がんを抑制する働きを持つことが分かっています。

 また、ウイルスに感染した細胞がそのまま生き続けると、ウイルスが繁殖してばら撒かれてしまいます。ですから、ウイルス感染細胞はウイルスが増殖する前に自殺しようとします。逆に、ウイルスの中には、細胞の自殺を止めてしまう蛋白質を作り出すものがいます。

 このように、私達が健康に生きるために、私達の細胞は必要に応じて積極的に死んでいくのです。このような細胞死は、大変重要な細胞の機能と考えられ、プログラム細胞死と呼ばれています。

 外傷性細胞死では、細胞は膨らんで破裂するような死に方をします。このような死に方はネクローシス(壊死)と呼ばれます。ネクローシスを起こした細胞からは細胞内の物質が放出され、炎症を起こします。一方、プログラム細胞死では、多くの場合、細胞は収縮し、細かい小胞に分かれていくような死に方をします。このような死に方はアポトーシス(枯死)と呼ばれます。アポトーシスを起こした細胞は速やかにマクロファージなどの掃除屋細胞に食べられてしまうため、炎症を起こしにくいと言われています。

 最近、ある種の細胞は病原体に感染するとネクローシス様のプログラム細胞死であるパイロトーシスを誘導することが分かってきました。パイロトーシスを起こした細胞は炎症を誘導することで免疫を活性化するので、病原体の排除に役立つと考えられます。

 多くの抗がん剤はがん細胞にアポトーシスを誘導して殺しますが、がん細胞にパイロトーシスを誘導できれば、がんに対する免疫を活性化する新しい治療法になる可能性があります。