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News Letter Vol.17

News Letter Vol.17

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目次

  • 所長よりご挨拶
  • 最新トピックス
    着任のご挨拶 がん・老化生物学研究分野 城村 由和 教授
  • シンポジウム開催
    第4回がん研若手コロキウム
  • 未来のがん研究者を育む がん研究早期体験プログラム「がん研EEP」
  • 共同研究者の紹介
    東京大学先端科学技術センター 柳井 秀元 特任准教授
    金沢大学がん進展制御研究所 大島 正伸 教授
  • 高校生へ向けて研究紹介
    腫瘍細胞生物研究分野 平田 英周 准教授
  • がん進展制御研究所若手研究者の紹介
    分子病態研究分野 本宮 網記 特任助教
  • 令和4年度 共同研究採択課題一覧
  • これまでに開催したセミナー/業績など
  • 石川そぞろ歩き(2)

高校生へ向けて研究紹介

腫瘍微小環境を標的としたがん治療戦略の開発

腫瘍細胞生物学研究分野
准教授 平田 英周

 私たちの研究室では腫瘍微小環境を標的としたがん治療戦略の開発を目指して研究を進めています。さて、腫瘍微小環境とは何でしょうか?

 がん組織はがん細胞だけでなく、血管内皮細胞や線維芽細胞※ 、マクロファージや好中球、リンパ球などの免疫細胞など、様々な種類の細胞から構成されています。これらの細胞は成長因子の分泌や細胞外基質※の再構成によって、がん細胞の増殖を促したり、浸潤や転移を助けたり、治療に対する抵抗性の原因を作ったりします。このように、がん細胞の生存を支える周囲の細胞や構造、分子、物理環境(硬さなど)を総称して腫瘍微小環境と呼びます。

 近年、がんに対する治療成績は飛躍的に向上しています。その理由の一つは、がんゲノム情報に基づいた治療戦略の策定です。がんに見られる異常な分子を精密に標的にすることで、がん細胞だけを死滅させることができるようになったためです。一方で、同じ薬剤であってもがんが転移した臓器によって治療効果が大きく異なることが知られています。この原因の一つががん細胞を取り巻く環境、すなわち腫瘍微小環境の違いです。がんを治すためには、腫瘍微小環境によるがん細胞の修飾や、これに伴う治療抵抗性の獲得といった問題を解決していく必要があります。

 現在、私たちの研究室では主に脳腫瘍の微小環境に関する研究を進めています。例えば、最も悪性度の高い脳腫瘍であるグリオブラストーマでは、なんと腫瘍組織全体の30~50%をマクロファージやミクログリアと呼ばれる免疫担当細胞が占めています。興味深いことに、本来がん細胞を攻撃するはずのこれらの免疫細胞は、むしろグリオブラストーマの増大に寄与していることが明らかとなっています。また様々な脳腫瘍の進展には、ニューロン(= 神経細胞)やアストロサイト(= ニューロンを支えるグリア細胞の一種)との相互作用が重要な役割を担っていることも明らかとなっています。

 このように、がん細胞に周囲に存在する一見正常な細胞も、がんの進展や再発に大きく関与しています。がん細胞を攻撃すると同時に、いかにして腫瘍微小環境からのサポートを遮断するか?その答えが、次世代のがん治療開発のカギを握っています。

 

 

※用語解説

  • 線維芽細胞:主に結合組織に存在する細胞で、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外基質を産生し、組織を支える役割を担う。
  • 細胞外基質:細胞外に存在する線維状の構造物で、コラーゲンなどが主な成分。細胞と細胞の間を満たして組織を支持するだけでなく、細胞の増殖や分化にも重要な役割を担っている。