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腫瘍細胞生物学研究分野
准教授 平田 英周
私たちの研究室では腫瘍微小環境を標的としたがん治療戦略の開発を目指して研究を進めています。さて、腫瘍微小環境とは何でしょうか?
がん組織はがん細胞だけでなく、血管内皮細胞や線維芽細胞※ 、マクロファージや好中球、リンパ球などの免疫細胞など、様々な種類の細胞から構成されています。これらの細胞は成長因子の分泌や細胞外基質※の再構成によって、がん細胞の増殖を促したり、浸潤や転移を助けたり、治療に対する抵抗性の原因を作ったりします。このように、がん細胞の生存を支える周囲の細胞や構造、分子、物理環境(硬さなど)を総称して腫瘍微小環境と呼びます。
近年、がんに対する治療成績は飛躍的に向上しています。その理由の一つは、がんゲノム情報に基づいた治療戦略の策定です。がんに見られる異常な分子を精密に標的にすることで、がん細胞だけを死滅させることができるようになったためです。一方で、同じ薬剤であってもがんが転移した臓器によって治療効果が大きく異なることが知られています。この原因の一つががん細胞を取り巻く環境、すなわち腫瘍微小環境の違いです。がんを治すためには、腫瘍微小環境によるがん細胞の修飾や、これに伴う治療抵抗性の獲得といった問題を解決していく必要があります。
現在、私たちの研究室では主に脳腫瘍の微小環境に関する研究を進めています。例えば、最も悪性度の高い脳腫瘍であるグリオブラストーマでは、なんと腫瘍組織全体の30~50%をマクロファージやミクログリアと呼ばれる免疫担当細胞が占めています。興味深いことに、本来がん細胞を攻撃するはずのこれらの免疫細胞は、むしろグリオブラストーマの増大に寄与していることが明らかとなっています。また様々な脳腫瘍の進展には、ニューロン(= 神経細胞)やアストロサイト(= ニューロンを支えるグリア細胞の一種)との相互作用が重要な役割を担っていることも明らかとなっています。
このように、がん細胞に周囲に存在する一見正常な細胞も、がんの進展や再発に大きく関与しています。がん細胞を攻撃すると同時に、いかにして腫瘍微小環境からのサポートを遮断するか?その答えが、次世代のがん治療開発のカギを握っています。
※用語解説